奇跡の経済教室 戦略編

奇跡の経済教室(戦略編)  中野剛志著 (KKベストセラーズ)を読んで

1.はじめに

皆さんは、コロナ禍で、10万円の給付金が国民全体に配られたことは、記憶に新しいと思います。この政府支出つまり国債発行は日本政府がコンピューターのキーを叩いて何もないところから、国民の指定された口座に一律振り込まれました。これによって国民が豊かになって、一時的に消費も喚起されたのです。奇跡の経済教室(基礎編)に続いて、この本では日本の経済政策を国民全員が理解できれば、歴史が変わるという内容で書かれています。
平成の時代に、デフレから脱却できなかった理由を解明し、戦略面から語っている本です。政治権力を動かしている人たちの考え方が理解出来ると、情報を見る目がガラッと変わります。

2.この本から得られるものとは

今まで、政府が推し進めてきた様々な政策、競争促進・生産性の向上、規制緩和、民営化、グローバル化の促進、金融引き締め、小さな政府、増税、インバウンドといった政策がなぜ間違いだったのかが、はっきりとわかります。そして国民が、正しい貨幣理論(MMT)を理解して、民意を政治に反映することの大切さが理解できます。

3.著者のプロフィール

元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。主な著書に「 TPP 亡国論」「日本の没落」など。

4. 本の概要

●基礎的知識のまとめ

平成の日本がデフレ脱却できなかった根本的な理由。それは、インフレ下での政策をとっていたから。。
下記、本書P25 デフレ時の政策とは真逆の政策をとってきた!

●2つの経済政策

”アメ型成長戦略”=賃金の上昇によって経済成長を実現しようという「賃金主導型経済政策」 
”ムチ型成長戦略”=企業の利潤の増加によって経済成長を実現しようという「利潤主導型成長戦略」

●ムチ型成長戦略の帰結

平成日本はずっとデフレだったのに、インフレ対策(財政支出の削減、消費増税、規制緩和、自由化、民営化、グローバル化)をやり続けた。アメリカ型の経済政策を行っても失敗に終わる。日本独自の強みである有能な官僚組織、強固な官民紐帯、企業・銀行・労働者の密接な協力関係などを適応させていく方法を継続すればよかった!つまり、構造改革をしてはいけなかった!でも、もう取り戻せません。

●富を増やす2つのやり方

1つ目:新たな富を生み出し、経済全体を成長させることで、多かれ少なかれみんなが豊かになる「プラス・サム」の方法
2つ目:他人の富を奪って、自分のものにすることで、自分だけ豊かになるという「ゼロサム」の方法。労働者派遣法は後者の典型的なもの。

●レントシーキング活動

平成30年PFI法(民間資金等の活用による公共施設の整備等の促進に関する法律)が整備された。しかし民営化を促進した結果「レントシーキング活動」といった、自分の利益を増やすためにルールや政策の変更を行うように政治や行政に働きかける活動が活発になってしまい、国民が豊かになる方向に進まかった。

デフレになると、需要が縮小して、ルサンチマン(怨恨の感情)をいだきやすくなり、楽をして儲ける人たちが許せなくなってくる。その感情をレントシーカーは利用して、「既得権益」=悪いもの」というレッテル貼りを国民感情をあおる。国民は改革派に賛同し「規制緩和=良いもの」の思考に一直線になる。でも実態はグローバリズム、移民政策など、様々な規制が撤廃されることで自分たちの生活も苦しくなっていく方向に向かってしまう。日本もグローバル化によって、日本という「国家の既得権益」もなくなってしまった。

●諸悪の根源=財政健全化

日本は、設備投資や技術開発投資を積極的に進めて生産性を上げれば、人手不足は解消される。経済が成長するとまた人手不足になるので金曜は更なる設備投資や技術開発投資に励む。これがアメ型成長戦略のシナリオ。このアメ型成長戦略による人手不足問題の回避を妨げているのが財政健全化。

つまり財政健全化こそが少子化や人口減少の最大の原因。生産性向上させるより先にデフレから脱却させる必要がある。デフレ脱却の最大の手段である財政出動や消費減税・投資減税が、「財政健全化」によって阻まれてしまっているのが最大の問題。
下記、本書 P291引用 安倍政権時には、民主党政権時より公共事業費を削減してしまった!!


以上平成の時代はひたすら財政健全化の政策を取ってきました。公共事業の関係費が削られてしまうことで、個人消費や実質賃金という国民生活を良くする本来の目的に繋がらないところでとどまってしまったのです。

5.この本を読んでの気づきとやるべきこと

日本の構造的なデフレを生み出す実態が理解できたことは収穫です。国民は、「改革を止めるな、時計の針を戻すな」などという言葉が良いものだと信じ込んでいました。 しかしながらその経済政策はほぼ全て、賃金の伸びを抑え、格差を拡大させ、経済を停滞させるものばかりだったのです。この事実に国民は目覚め、声を上げないといけないのです。

時代に流され正しい知識も得ず、政府の言いなりになってきた国民一人ひとりが、平成から令和に年号が改まった時点で経済政策の転換の必要性を学び、それを広めていくことが大切だと感じました。

自分自身、継続して、MMTなどの貨幣理論、経済の仕組み、日本という国家がより良くなるための経済政策の知識を得て、それを広め自分の考えを投票行動に反映させる、という行動を続けたいと思います。

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