おい真似してくれ!言いたいのはこれだけなんだよ!
ある日の出来事
受験シーズン真っ只中の2月のある日、塾講師の私は、一人の中学生に数学の問題を教えていました。
その内容は、数学で最もつまづきやすい分野の一つである、方程式の文章問題! 私も覚悟はしていましたが、予想通り困難を極めました。
その日の生徒とのやり取りの最中、私は心の中である言葉をずっと叫んでいたのです。
「頼むから、ここにあるとおりにノートに書いてくれ!」
これから話すストーリーは、教える側に立つ時、そして自分が学ぶ時に大切な教訓となるものでした。
裏切られた予想
以下は、私が生徒(以下生徒A)に数学の方程式の文章問題を教える時に交わした会話です。
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私:方程式を解くには、例題の真似をすることが一番重要。ここに書いてあるとおり、「〇〇をXとおき、△△をYとおく」と最初に書くと簡単に答えが導きやすくなるから、そうしてみて・・。
生徒A:はい、わかりました。
(生徒の行動)
私の言われたとおりには決してノートに書かず、いきなり計算式を書き始め、何度も書き直し、しばらく考えている。
私:もう一回言うよ。〇〇をXとおいて、△△をYとおくと・・・と、最初にノートに書いて。
わかったよね?
生徒A:はい、わかりました。
(生徒の行動)
解答欄にいきなり数式を書き始め、悩んでいてちっとも解けない。時間がかかっても解けず悩ましい顔をしている。
私:(またできていない状態を見て)・・・・できるまで何度も言うね。もう一度例題を見て!ノートに例題に書いてあるものをそっくりそのままコピーして書くだけでいいからね。そうすると必ず解けるようになるから・・
生徒A:はい、わかりました。
ついに驚きの変化が・・・
(私の行動)
きっと生徒は、やってくれるに違いない、そう信じていた私はその生徒を信用し、その場から離れていました。しばらくして、その生徒に向き合うと・・・
(生徒の行動)
今度はノートの右隅に「〇〇をXとおいて、△△をYとおくと・・」と小さな字で遠慮がちに書いていたのです。
私:おー、きちんと書いているね。でも右隅にそんなに小さく書いても読めないよ。この文章をまず、解答欄の中央に堂々と書いて!!そうすれば必ず解けるから!
生徒A: はい!
(最終的にとった生徒の行動)
ついに、例題に書かれている手順をそっくり書き写し、問題を解いたらスラスラと問題が解けたのです。答え合わせをしてみたら見事に正解!!
私:素晴らしい!きちんと例題に書かれた方法を真似すれば必ず解けるようになるよね。今日できたことを忘れないで、大事なことはそっくりそのまま真似をすることなんだよ!問題を解くのに悩んだら、今のページを開いて今日の事を思い出すんだよ!!
生徒A:(大きくうなずいて)はい、わかりました!
(生徒の行動)
そのページにポストイットを貼って、すぐ参照できるようにしていました。
(私の心の中の声)
Oh!Yes! これだよ、求めていたものは! 気づいてくれて有難う!
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以上が生徒とのやり取りです。
その生徒にとってこの日の出来事はずっと記憶に残り、同じ間違いをしなくなるでしょう。
何を教訓にすべきか?
上記の生徒との実例から何を学べるのでしょうか? それは、人は簡単には変わることができないということ、そして新しいことを学ぶ時の極意は、そのまま良い見本を真似をすること、です。
例題を真似することが問題を解くための一番の近道だとわかっていても、生徒は自分が今までやってきた行動と同じことをしてしまう。つまり、同じこと(自分がやりやすい勉強法)をして、違う結果(良い成績)を求めてしまうのです。 潜在意識の現状維持メカニズムが見事に機能して、今までの行動をなかなか変えられないのです。
これは、川の流れに例えてみるとわかりやすいかと思います。
今流れている川の流れは、決して短期間でできたものではなく、長い年月をかけてできたものであり、周囲に谷を形成している川もあります。そしてその川の流れは、別の方向に流れることができないのと同じように、長年培ってきた自分の思考も容易に変える事ができないのです。
このことは、指導者にとっても心得ておくべき教訓になるのではないでしょうか?
このことを本当に理解していれば、「勉強しなさい、きちんとやりなさい」と強く叱っても効果がないことがわかるでしょう!
まとめ:心得るべきポイント!
今回の生徒とのやり取りの中から得た自分の学びを、自分なりの心得としてまとめました。
心得1)自分が何かを学ぶ時には、「良いことは素直に真似をする」柔軟な考え方を持つこと。
心得2)指導をする側に立つときには、生徒をしっかり観察しその人に合った「わかった感動体験」を作り出す”仕掛け”を意識的につくり出すこと。
生徒とのちょっとしたやり取りの中に、学ぶべきヒントが詰まっています。これからも、目の前の生徒と真剣に向き合うことで自分の学びにつなげていけたらいいと感じています。