責任ある積極財政が変える日本経済

~高市政権の成長戦略の全体像~
はじめに
2025年12月14日、東京・白金台で開催された高市政権の経済政策に関する講演会に参加してきました。
最近よく耳にする「サナエノミクス」。高市政権がどんな経済政策を考えているのか、詳しく知る機会はありません。
今回の講師は、高市政権のブレーンである第一生命経済研究所の永濱利廣氏と、クレディ・アグリコル証券の会田卓司氏。お二人の対談から学んだ内容を、できるだけわかりやすく以下にまとめました。

講演会の内容
日本経済の現状:なぜ今、変わらなければいけないのか
日本の経済成長率は、主要国の中でも特に低迷しています。その原因は、バブル崩壊以降、企業が新しい投資を減らし、給料を上げず、借金返済ばかり優先してきたこと。「節約モード」に入ったまま30年以上が経過し、経済全体が停滞する悪循環が続いてきました。
高市政権は、この流れを根本から変えようとしています。
「責任ある積極財政」とは何か
高市政権の経済政策の柱は、「責任ある積極財政」と「供給力の強化」です。
「積極財政」とは、政府が積極的にお金を使って経済を回すことです。今の日本は本来の経済力を発揮できていません。政府がお金を使うことで景気を良くし、地方や中小企業にまで効果を届けることを目指しています。
では「責任ある」とは?これまで日本は「プライマリーバランス(税収 − 政策支出)の黒字化」を目標にしてきました。しかし、これは将来の成長投資まで削ってしまう問題がありました。
新たに重視するのは、「政府債務残高の対GDP比」を安定的に下げることです。例えば、年収400万円で借金200万円の人(借金割合50%)の年収が800万円に増えれば、借金200万円のままでも割合は25%に下がります。経済を成長させれば、相対的に借金の負担が軽くなるのです。
さらに「コア・プライマリーバランス」という考え方を導入。将来の成長につながる投資は別枠とし、日常的な支出だけを税収で賄います。工場の例で言えば、「古い機械のまま我慢する」のではなく、「一時的に借金しても最新機械を導入し、良い製品を作って売上を伸ばす」という発想です。

世界の潮流:官民連携の時代へ
「政府は口を出さず民間に任せる」という新自由主義は、短期利益追求や投資不足を招きました。
今、世界は、経済安全保障、防災、防衛、先端技術といった課題に、政府と民間が協力して長期投資を行うという流れに向かっています。アメリカの「インフレ削減法」やEUの「グリーンディール」がその例。高市政権も、この世界の流れに乗って成長投資を積極的に行う姿勢を示しています。
供給力の強化で物価高に対応
物価上昇の原因の一つは、需要に対して供給が足りないこと。高市政権は、供給能力を高めて物価を安定させる戦略です。
具体策は、企業の設備投資促進による生産性向上、「即時償却」(設備投資した年に投資額を全額経費にできる制度)の導入、そして電気・ガス代支援や賃上げ促進策で実質賃金をプラスにすることです。
日銀との連携と未来への投資
日本銀行には、「物価の安定」だけでなく「経済成長と物価安定の両立」を求めています。円安対策で金利を上げすぎると投資が冷え込むため、政府と日銀の適切な連携が重要です。
講演では印象的な言葉がありました。
「平時に供給能力を高める投資をしておくことこそが、有事や震災への最大の備えになる」
この政策は単なるバラマキではありません。人口減少を悲観するのではなく、価値の高い産業を育成し、生産性を高めて経済を成長させることが狙いです。
講演者は工場の例えで説明しました。「これまでは目先の節約を優先し、古い設備のまま生産性が落ちていました。今は、一時的に借金しても最新機械を導入し、価値の高い製品を作って、最終的に借金を返済し全員の給料を上げようとしているのです」
講演を受けての個人的な感想
評価できる点
高市政権のブレーンの方々のお話を聞いて、従来の経済政策を転換しようとする姿勢は評価できます。プライマリーバランス黒字化目標の見直しや国内産業強化策は、岸田・石破政権と比べて前向きなことは確かです。ブレーンの方々が財務省や緊縮派と戦いながら、良い方向に進めようとしている姿勢は伝わってきました。
課題と懸念
一方で、本当に国民のためになるのかという視点では課題もあります。
石破政権の緊縮予算が2026年度に影響するため、高市政権の政策効果が出るのは2027年度から。国民が実感しやすい消費税減税やインボイス廃止の議論が盛り上がらないのは残念です。
12月19日、日銀が政策金利を0.75%に引き上げましたが、円安を止める目的は達成できませんでした。金利上昇は企業の投資を妨げてしまうことは明らか。日銀の決定が国民の実態経済とリンクしていない印象を持ちました。
今後に向けて
今回の講演では、参加者の質問のレベルが高く、自分の知識不足を痛感しましたが、講演会に参加したことで、経済を学ぶモチベーションにもなりました。
大切なのは、政策の掛け声ではなく「国民生活にどんな結果をもたらすか」を冷静に見ることです。計画通り実行されるか、効果が出るかは未知数です。これからの日本経済が本当に変わるのか、注視していきたいと思います。

【主な用語メモ】
- GDP: 国で1年間に生み出された財・サービスの総額
- プライマリーバランス: 税収 − 政策支出
- 債務残高GDP比: 借金が経済規模に対してどれくらいあるかの割合
- 実質賃金: 物価変動を考慮した実際の給料の価値
- 即時償却: 設備投資した年に投資額を全額経費にできる制度

