高市政権は「保守の希望」か「席替え」か――浜崎洋介先生トークイベント参加レポート

はじめに
11月30日(日)、京都市子ども未来館で開かれた、もぎせかチャンネルトークイベント「浜崎洋介先生に聞く『高市政権と保守思想の現在』」に参加しました。茂木誠先生と浜崎洋介先生との対談は、休憩を挟んで約3時間。今回、浜崎先生のお話を直接聞けたことは、私にとって大きな学びでした。
テーマは、高市政権をどう評価するか、そして保守思想は今どこに立っているのか。浜崎先生は文芸批評家であり、『表現者クライテリオン』編集委員としても活躍されています。政策の是非だけでなく、人間観・思想・歴史観から政治を読み解く視点が印象的でした。以下に、講義の要点を整理し、最後に私自身の感想をまとめます。

講義内容
1)真理と組織――異端が生まれる仕組み
講義の導入は、中世ヨーロッパの異端審問を描く作品の考察でした。真理を追う者は命を賭け、組織に従う者は「正しさ」を遂行する。特徴的なのは、異端を裁く側が怪物ではなく、「普通の組織人」として描かれる点です。ルールに従うことが仕事になり、本人の信念は脇に置かれていく。浜崎先生は、ここに官僚機構や組織の思考停止を重ねていました。
一方で、真理の側にも危うさがある。自分たちの世界観が「美しい」と確信した瞬間、その美を現実に実現しようとして“美しくないもの”を排除し始める。理想主義と官僚制が合体すると全体主義になる――この警告は、政治を評価する視点へつながっていきます。
2)高市政権をどう見るか――「言うこと」より「レッドライン」
会場アンケートでは、支持が約3分の1、様子見が約半数、不支持が約1割でした。不支持の理由には、
- 自民党内で潰されるのでは
- ウクライナ支援姿勢への疑問
- 減税に踏み込まない
- LGBT法案賛成への不信
などが挙げられました。
ここで浜崎先生が強調したのは、政治を“主張の一致”だけで採点しないことです。政治は理想の発表会ではなく、組織と手続きの中で「何を譲って何を取るか」の連続。だから問うべきは、個別政策だけでなく、「譲ってはいけない一線(レッドライン)をどこに引く人物か」だという点でした。
「美徳と諦念」
評価の軸として示されたのが「美徳と諦念」です。
- 美徳:他者と関係を結び、信頼を積み上げる芯
- 諦念:壁に当たっても恨みにせず、長期戦として運ぶ感覚
政治家は正しさを叫ぶだけでなく、妥協のなかでも考え方の中心軸を守れるか、そして失敗を怨念に変えず粘れるかが問われる、という話でした。
自民党という装置
自民党は問題が多い一方、与党として行政に触れ、実務経験を積む議員が多い。サラリーマン的で危うい面はあるが、トップの方向性次第で動く余地がある。政権評価には、この「装置の現実」を見る視点が必要だと感じました。

3)国家運営の「三体系」――力・利益・価値
講義の中核は、国家は「力・利益・価値」が揃って初めて国家になる、という点です。
- 力:軍事・安全保障
- 利益:経済・国民生活
- 価値:精神性・アイデンティティ(歴史意識)
冷戦期の日本は、力を米国に委ね、利益は輸出で稼ぎ、価値は戦後民主主義で自己像を保った。しかし90年代以降、利益も価値も崩れ、力だけ外部に預けたまま「失われた30年」に入った。今はこの三体系を組み替えなければならない――という問題意識でした。
高市氏の方向性としては、①防衛力強化(力)、②積極財政と内需重視(利益)、③歴史・皇室・靖国など価値の再接続(価値)が挙げられました。ただし優先順位は生活の基盤=利益が上位で、価値は時期と順序がある、という現実的な面を言及されました。
レッドライン
「ここを超えたら支持しない」例として、
- 増税
- 移民拡大につながる制度推進
- 緊急事態条項や国際枠組みを口実にした強制(マスク・ワクチン等)
が挙げられました。外交では、ウクライナ一辺倒の姿勢への疑問も提示され、縛っているものの正体(党内・官僚・外圧など)を見極める必要がある、という問題提起がありました。

4)若者の独立自尊――個人ではなく共同体で支える
重要な点は、独立自尊は個人では守れない、という結論です。必要なのは、会社や権力とは別の「中間共同体」――家族、友人、地域、仲間。挑戦して負けても恨まずに済む受け皿がある人ほど、むしろ大胆に挑戦できる。
またデフレ脱却=積極財政の意味は、単なる景気対策ではなく、家庭が生活を営み、子どもが勇気を育てる土台を広げるためだと語られました。経済は人間の土台であり、土台が弱い社会では、人が追い詰められる。政治は最終的に「人が人らしく生きる条件」を整えることに帰着する、という結びが印象に残りました。

まとめ
今回の講義で最も大切だと感じたのは、「異端」を排除するのではなく、異端が生まれる背景を読み解き、組織に呑まれず核を保つ人物を見極めることです。政治は理想を語るだけでは進まない。国家の「力・利益・価値」をどう組み替え、社会の土台を立て直すのか。その方向に一歩でも進めるかが問われています。
講義を聞いた後の私の感想(是々非々)
私は高市政権を是々非々で見ています。中国への姿勢や伝統保守の発信は評価できる一方、国民生活にどこまで寄り添うのかは疑問があります。ワクチン政策、ウクライナ問題の見立て、消費税に踏み込まない姿勢など、現実には国民負担が増える方向に見える政策もあると感じます。
多くの支持が「岸田・石破よりマシ」という雰囲気で支えられているのでは――という違和感もあります。自民党内の席替えで、なぜこれほど高揚が生まれるのか。私はそこを冷静に見たいと思いました。
最後に、政治家を見るときの私の判断軸を記します。
- 掛け声ではなく、具体的な「行動」を見よ。
- イデオロギーではなく、積み上げた「実績」を見よ。
- 耳あたりの良い言葉ではなく、「国民生活の向上」という結果で判断せよ。
イベント参加を「良い話が聞けた」で終わらせず、別の視点の意見も取り入れながら政策を点検し、自分の生活と日本の未来が良くなる方向を見極めていきたいと思います。

